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京都地方裁判所福知山支部 昭和62年(ヨ)4号 決定

申請人

別紙申請人の表示記載のとおり

右代理人

別紙申請人代理人の表示記載のとおり

被申請人

別紙被申請人の表示記載のとおり

右代理人

別紙被申請人代理人の表示記載のとおり

右当事者間の業務命令効力停止仮処分申請事件について、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

一  被申請人が申請人らに対し、昭和六一年一二月一七日になした福知山運転区人材活用センターへの担務を指定する命令の効力を仮に停止する。

二  本件手続費用は被申請人の負担とする。

理由

第一申請の趣旨

主文第一項と同旨

第二事実認定

一  申請人らの主張は多岐にわたるが、申請人ら提出の疎明方法を取調べ、被申請人提出の疎明方法をも取調べ、審理に必要な範囲内で、以下のとおり認定する。

二  本件疎明によると、申請人らがいずれも日本国有鉄道福知山鉄道管理局管内の国鉄職員であること、申請人らが従前それぞれ別紙人材活用センター配属一覧表の「職名」欄記載の職名を与えられ、福知山運転区(旧福知山機関区)に勤務し、機関車、気動車、電車等の運転(但し、申請人大槻は機関車、気動車の運転)をしていたところ、昭和六一年一二月一〇日福知山運転区長から同月一七日以降福知山運転区人材活用センターへの勤務(担務指定)を命ずる事前通知書の交付を受け、この命令に従い昭和六一年一二月一七日から福知山運転区人材活用センターへ勤務していること、右発令は被申請人が申請人らに対し事前に発令後の職務の内容やその職務に申請人らが従事することの意義を説明しておらず、申請人らの希望意見を徴することなくなされたもので、申請人らの同意を事前にも事後にも得ていないものと一応認められ、被申請人もこれを争わない。

三  本件疎明によると、申請人芦田は国鉄に二五年間働いており、昭和五四年に機関士となり、昭和五八年五月には一〇万キロ無事故記録証を授与されており、気動車運転士、電車運転士の資格をも有していること、申請人井上は国鉄に二六年間働いており、昭和四一年に機関士となり、昭和六〇年五月には四回目の一〇万キロ無事故記録証を授与されており、気動車運転士、電車運転士の資格をも有していること、申請人大槻は一二年間国鉄に働いており、昭和五八年に機関士兼気動車運転士となり、昭和五九年一〇月には一〇万キロ無事故記録証を授与されたこと、申請人田中は国鉄に二九年間働いており、昭和四八年に気動車運転士となり、三回にわたり一〇万キロ無事故記録証を授与され、機関士、電車運転士の資格をも有していること、いずれも無事故以外に職務上の功績によって上司から表彰もしくは褒賞を受けていること、勤務成績はいずれも優秀もしくは現在の国鉄機関士の平均水準を超えているもので、上司に対する態度が不良であるとか協調性がないとかの事実はないものと一応認められる。被申請人は右認定を左右するに足りる疎明を提出していない。

四  本件疎明によると、申請人らは人材活用センターにおいて予備乗務及びパソコン講習を受け一部はクラフト作業をしていること、予備乗務においては本務者の年休その他の理由による乗務不能が多々あるため申請人らは人材活用センターに発令後も本務者に代って機関車、気動車等を運転しており、運転現場から離されたものではないが、従前の運転区詰所ではなく人材活用センターに出勤しているものであること、パソコン講習及びクラフト作業については、申請人らの機関士、運転士としての技能と関係がないうえ、仮にこれらに習熟したとしてもそれが申請人らの今後の業務にどのように役立つか不明であり、国鉄の増収増益には全く役立っていないこと、本件発令は定期異動とは質を異にし、高度の専門技能職である機関士、運転士に職種と言えない講習の受講や作業を命ずるもので、その趣旨、目的が不明であり、申請人らに対し人材活用センターでの講習や作業によって仕事のやり甲斐と生き甲斐を与えることができず、いたずらに精神的苦痛を与えていること、数多くの国鉄職員の中で優秀な又は相当な経験を積んで運転技能のある申請人らが何故に人材活用センターに発令されたのかその理由が不明であること、以上の事実が一応認められる。

五  被申請人は、福知山鉄道管理局管内の人材活用センターの作業実態は、直営売店勤務、列車内や無人駅での特別改札、駐車場の管理、業務用自動車の整備、点検、軌道保守業務、財産図面及びその補助台帳の整理、臨時列車乗務、波動期における波動駅への助勤、電化に伴う教育訓練その他多能化のための教育など、極めて有意義な業務に従事させており、作業指示がなされていない箇所はない、と言うが、少なくとも申請人らの勤務する福知山運転区人材活用センターについては前示認定のとおりであり、国鉄業務あるいは国鉄改革への有用性と申請人らにとっての有意義性を一応認めるに足りない。

なお、臨時行政調査会の昭和五七年七月三〇日付基本答申、国鉄再建監理委員会の昭和五八年八月二日付「緊急に講ずべき措置の基本的実施方針」及びその後の第二次提言は国鉄労使の意識改善や職場規律の確立を求め、世人も支持するところであり、申請人らにも一層の企業努力が望まれるところであるが、本件の如き人材活用センターの設置を勧告したものとは解し難い。

六  本件疎明によると、福知山鉄道管理局管内の福知山線、山陰本線(一部)は昭和六一年一一月一日から電化開業しており、福知山運転区は電化区間のほか未電化の山陰本線、舞鶴線等を抱え乗務員の運用が複雑になっており、機関士、運転士はどのような車種の車も運転できることが望ましく、かつ常時運転することが経験を豊かにし安全運転に資するものと一応認められる。

第三判断

一  前示のとおり、申請人らは、同意をせずに人材活用センターに発令されたものであるが、被申請人は職員に対し人事の権限をもっており、申請人らの同意のない本件発令が当然に無効というものではない。

しかしながら、本人に事前の説明をせず、本人の同意なしに人事発令をするには、それだけ被申請人の業務上の必要性、有用性があり、かつ申請人の技能、勤務実績等の個別の事情からして正当として是認できるものでなければならない。

二  しかしながら、本件人材活用センターにおける作業内容が前示認定のとおりであり、その必要性、有用性が不明で、申請人らの有する高度の専門的技能が全く活用されておらず、多数の職員の中からあえて申請人らを発令する理由が明らかでないのであるから、本件発令は人事権の濫用であり、無効と解するのが相当である。よって、本件仮処分の被保全権利が認められる。

三  前示のとおり、昭和六一年一一月一日からの電化開業に伴い機関士、気動車運転士は電車運転士の資格をも取得し、電車運転にも習熟することが望ましいところ、申請人大槻は電車運転士の資格を取得しておらず、他の申請人らにおいても運転の機会が少なくなっておりその技能の保持、向上に少なからぬ不利益を被っており、いずれも緊急な救済を必要とするものと解される。よって、本件仮処分の保全の必要性がある。

被申請人は、近々人材活用センターは解散する予定であると主張するが、これをもって右保全の必要性が無いと言うに足りない。

第四結論

以上の次第であり、申請人らの申請は理由があるので、保証を立てさせないで認容することとし、本件手続費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 井土正明)

申請人の表示

申請人 芦田哲

同 井上義治

同 大槻隆雄

同 田中明

申請人代理人の表示

弁護士 宮本平一

弁護士 小林義和

弁護士 前田貞夫

弁護士 福井茂夫

弁護士 村山晃

弁護士 森川明

弁護士 吉田隆行

被申請人の表示

被申請人 日本国有鉄道

右代表者総裁 杉浦喬也

被申請人代理人の表示

弁護士 佐賀義人

小谷静嘉

人材活用センター配属一覧表

〈省略〉

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